退職金は受け取り方によって、税金の負担額が変わることをご存知でしょうか。
退職金には所得税や住民税がかかり、受け取り方が異なると税金の計算方法も変わります。
自身のライフスタイルにあわせて賢く受け取り、ゆとりのある老後を過ごすには、あらかじめ退職金にどのくらいの税金がかかるのかを把握しておくことが大切です。
そこで今回は退職金にかかる税金の種類や計算方法を解説します。
受け取り方別の税金のシミュレーションもしているので、退職金の受け取り方に悩んでいる方も、ぜひ参考にしてみてください。
退職金にかかる税金の種類と計算方法
退職金を受け取るときは、以下の税金がかかります。
- 所得税
- 住民税
まずは、それぞれの概要と計算方法を解説します。
所得税
所得税とは、給与や賞与といった個人が1年間に得る収入から所得控除などを差し引いた所得にかかる税金です。
所得税の主な課税方法は、給与所得や不動産所得などを合算して計算する総合課税と、ほかの所得と切り離して計算する分離課税の2つです。
退職金の課税方法は受け取り方によって異なり、一時金として一括で受け取ると分離課税、年金形式で受け取ると総合課税に該当します。
所得税の税率は所得金額ごとに以下のように定められています。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
なお、2037年までは復興特別所得税として「復興特別所得税=所得税×2.1%」を納めなければなりません。
住民税
住民税は、前年の1月1日から12月31日までに所得があった人が、その年の1月1日時点に住所があった市区町村(都道府県)に納めます。
一般的に住民税は、市町村民税と道府県民税の2つから構成されます。
退職金にかかる住民税の計算方法は、以下の通りです。
住民税=所得金額×税率
税率は原則10%(市町村税6%、道府県民税4%)ですが、一部例外があるので計算をする際はあらかじめ自治体のホームページで確認しておきましょう。
なお、所得税や住民税は退職金の全額ではなく、のちほど解説する退職所得控除や公的年金等控除を差し引いた所得金額から算出されます。
退職金にかかる税金は受け取り方で異なる
退職金にかかる税金は、受け取り方によって金額が異なります。
ここからは、以下の2つのケースにおける退職金の扱いや所得税、住民税を計算する流れを解説します。
- 一時金として一気に受け取る
- 年金形式で受け取る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
一時金で受け取る場合
退職金を一時金で受け取る場合、「退職所得」として税金を計算します。
退職所得は、給与所得などのほかの所得とは切り離す「分離課税」として計算され、以下のような税制優遇が受けられます。
退職所得=(退職金-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額は、勤続年数に応じて以下のように異なります。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1日でも超えていれば1年として加算します。
たとえば、勤続年数が18年1ヶ月であれば19年として計算します。
退職所得を算出できたら、所得税と住民税のそれぞれの税率を用いて税額を求めましょう。
年金形式で受け取る場合
退職金を年金形式で受け取る場合は、老齢基礎年金や老齢厚生年金とあわせて雑所得として計算します。
一時金の場合では退職所得控除の対象でしたが、年金形式で受け取る場合は「公的年金等控除」が適用され、控除額は年齢や収入によって以下のように異なります。
<年金以外の所得が年間1000万円以下>
公的年金等の収入金額 | 公的年金等にかかる雑所得の金額 | |
65歳未満の方 | 600,000円以下 | 0円 |
600,000円超 1,300,000円未満 | 収入金額-600,000円 | |
1,300,000円以上 4,100,000円未満 | 収入金額×0.75-275,000円 | |
4,100,000円以上 7,700,000万円未満 | 収入金額×0.85-685,000円 | |
7,700,000円以上 10,000,000円未満 | 収入金額×0.95-1,455,000円 | |
10,000,000円以上 | 収入金額-1,955,000円 | |
65歳以上の方 | 1,100,000円以下 | 0円 |
1,100,000円超 3,300,000万円未満 | 収入金額-1,100,000円 | |
3,300,000円以上 4,100,000円未満 | 収入金額×0.75-275,000円 | |
4,100,000円以上 7,700,000円未満 | 収入金額×0.85-685,000円 | |
7,700,000円以上 10,000,000円未満 | 収入金額×0.95-1,455,000円 | |
10,000,000円以上 | 収入金額-1,955,000円 |
なお、雑所得は総合課税の対象となるので、退職金や年金のほかに不動産所得などがあれば、合算したうえで所得税や住民税を求めます。
【受け取り方別】退職金の税金シミュレーション
ここからは勤続年数が36年、退職金を2500万円受け取ったAさんを例に、退職金の受け取り方によって税金がどのくらい変化するのかを計算します。
なお、今回は住民税率を10%として計算しますが、自治体によって異なる場合があるので、税金のシミュレーションをする際は事前に税率を確認しておきましょう。
一時金で受け取る場合
退職金を一時金として受け取る場合、まずは退職所得控除額を求めます。
Aさんは勤続年数が36年なので、退職所得控除額は以下のように計算します。
800万円+70万円×(36年-20年)=1920万円
次に課税対象となる退職所得を求めます。
(2500万円-1920万円)×1/2=290万円
退職所得が算出できたら、所得税の税率表を用いて納税額を求めましょう。
290万円×10%-9万7500円=19万2500円
次は、算出した所得税をもとに復興特別所得税を計算します。
19万2500円×2.1%=4,042円(端数は切り捨て)
住民税は退職所得に10%をかけることで求められます。
290万円×10%=29万円
最後に所得税、復興特別所得税、住民税を合計します。
19万2500円+4,042円+29万円=48万6542円
退職金を一時金として受け取る場合、税金は合計で48万6542円、手取りは2451万3458円となります。
年金形式で受け取る場合
次は退職金の2,500万円を61歳から10年間、年250万円を年金として受け取る場合の税金を計算します。
公的年金等控除は、年齢によって控除額が異なるので、以下のように年齢ごとに年間所得を計算します。
- 61~64歳の年間所得:250万円×0.75-27万5,000円=160万円
- 65~70歳の年間所得:250万円-110万円=140万円
算出した所得をもとに所得税や住民税を求めます。
年間所得 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | |
1~4年目 | 160万円 | 8万円 | 1,680円 | 16万円 |
5~10年目 | 140万円 | 7万円 | 1,470円 | 14万円 |
合計 | 1480万円 | 74万円 | 15,540円 | 148万円 |
最後に所得税、復興特別所得税、住民税を合計します。
74万円+15,540円+148万円=223万5540円
退職金を年金形式で受け取る場合、税金は合計で223万5540円、退職金の手取りは2276万4460円となります。
退職金を一時金として受け取った場合の手取りの「2451万3458円」と比較すると、年金形式で受け取った場合の手取り額が175万円ほど少ないことがわかります。
また、年金形式で受け取った場合は、老齢基礎年金や老齢厚生年金、アルバイトなどの収入とまとめて計算することになるため、年間収入が上がるほど税率も高くなり、納税額が大きくなってしまう可能性があるので注意しましょう。
実際に税金のシミュレーションをする際は、公的年金なども含めて算出するのがおすすめです。
なお、シミュレーションでは年金形式の方が手取りが少なくなりますが、一時金・年金形式を併用して受け取ることで税金を抑えられるケースもあります。
退職金の税金のよくある質問
最後に退職金の税金に関するよくある質問に回答していきます。
一時金と年金形式のどちらで受け取ったほうがいい?
一時金として受け取る方が納税額を抑えやすいメリットがありますが、まとまった金額が手元に入ると、不要な出費が増える場合もあるでしょう。
なお、年金形式で受け取る場合は、手取り額が少なくなるだけでなく、国民健康保険や介護保険料などの社会保険料が増えてしまう可能性も考えられます。
その反面、少しずつ受け取ることで、使いすぎを防止できるメリットもあります。
このように、状況次第でどちらの受け取り方がよいかが変わるため、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談したうえで判断するのがおすすめです。
確定申告は必要?
一般的に退職金は勤務先で手続きをしていれば確定申告をする必要はありませんが、年金収入が400万円を超える人は必ず申告をしなければなりません。
なお、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、20.42%の税金が源泉徴収されるため、確定申告をすることで還付が受けられます。
ふるさと納税や医療費控除などの所得控除の適用を受ける場合も、確定申告が必要となります。
確定申告が必要な人や申告の流れは、こちらの記事で詳しく解説しています。
退職金は退職後のライフプランにあわせて賢く受け取ろう
退職金は年金形式よりも一時金として受け取る方が納税額が抑えられ、手取りが多くなる傾向があります。
ただし、まとまった金額が手元に入ると不要な出費が増える場合もあるので、計画的に活用したい方は年金形式で受け取る方法も検討してみましょう。
退職金をどのような方法で受け取るべきか悩んでいる方や、老後の家計に不安を抱えている方は、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談するのがおすすめです。
お悩みの方は、お気軽にご相談ください。
監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士
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